千葉県立中央博物館分館海の博物館メールマガジン バックナンバー
海からのたより 第204号
配信日時:2022/02/01 08:30
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  千葉県立中央博物館 分館海の博物館メールマガジン

 『海からのたより』 第204号
                          2022年2月1日発行

                 千葉県立中央博物館 分館海の博物館
                 http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/
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  海の博物館は、新型コロナウイルス感染防止対策を講じた上で通常どおり
 開館しています。
  入館時には体温計測、手指消毒、来館者情報記入等にご協力ください。
 また展示室では間隔を空けてご観覧ください

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│目次
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★2月から3月の主催行事のご案内
★研究員ノート -「パリカメノコキクメイシ」には2種が含まれていた-
★海の博物館周辺の情報

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│★2月から3月の主催行事のご案内
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【展覧会】
 ●令和3年度マリンサイエンスギャラリー「千葉県エビ・カニ大集合!」    
 房総半島の丘陵地帯から外房の深海まで、千葉県にはさまざまなエビやカニ
 (十脚甲殻類)が生息しています。その顔ぶれは、私たちの食卓に上るクル
 マエビや子供のころに遊び相手となったサワガニなどの親しみのある種類ば
 かりでなく、千葉県の海で発見された学術的価値の高い希少種など、多岐に
 わたります。この展示では、本県に分布するエビやカニの多様性をとおして
 みなさまに千葉県の自然の豊かさをお伝えします。
 ・会期:2月26日(土)~5月8日(日)


【講座】
 研究員がスライドやビデオ等を使って、海の生き物や自然を紹介する行事
 です。
 
 ●「アサクサノリの話」  講師 海の博物館研究員
 古く江戸時代から養殖され、乾海苔の代名詞として有名でありながら、今や
 絶滅危惧種となっているアサクサノリという生きものについて紹介します。
 ・開催日時:2/26(土)13:30~15:00
 ・対象:中学生以上
 ・定員:8名

 ●「勝浦の甲殻類」    講師 海の博物館研究員
 2月26日(土)から始まるマリンサイエンスギャラリー「千葉県エビ・カニ
 大集合!」に関連した講座です。
 房総丘陵から勝浦海底谷まで、これまでに勝浦の川と海から収集された甲殻
 類について紹介します。
 ・開催日時:3/12(土)13:30~14:30
 ・対象:中学生以上
 ・定員:8名


≪講座参加方法≫
 行事ごとに、以下を明記の上、開催日2週間前必着で、海の博物館あてに
ハガキ・FAX・電子メールのいずれかでお申し込み下さい。
  定員を越えた場合は抽選となります。抽選結果はご連絡いたします。
   ※博物館ロビー受付でもお申し込みいただけます。

・記入事項(希望者全員の情報を記入)
  1.氏  名
  2.住  所(郵便番号も)
  3.電話番号
  4.年  令
  5.ご希望の行事名と日時

≪お申し込み・お問い合わせ先≫
  千葉県立中央博物館分館海の博物館
   〒299-5242 千葉県勝浦市吉尾123
   電話 0470-76-1133  FAX 0470-76-1821
   電子メール umihaku@chiba-muse.or.jp

※新型コロナウイルスの感染状況によっては、中止となる場合があります。

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│★研究員ノート  -「パリカメノコキクメイシ」には2種が含まれていた-
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 昨年11月、筆者を著者に含む標記タイトルの内容の論文がオーストラリアの
学術雑誌Invertebrate Systematics誌に発表されました。その概要については
海の博物館のホームページにも掲載されていますが、今回はこの論文の背景や
実際の研究の内容について、少し詳しくご紹介しましょう。

 「造礁サンゴ」は熱帯・亜熱帯の浅海に多く生息し、サンゴ礁という地形を
つくる主役となる重要な動物です。造礁サンゴの仲間は、よく似た種が多いこ
とや生息水深や波当たりの強さなどの環境で形態が変化しやすいという特性が
あるため、同種か別種かを決めるのが難しいことが少なくありません。今回の
表題にある「パリカメノコキクメイシCoelastrea aspera」もそのような造礁
サンゴのひとつで、インド・西太平洋域に広く分布し、日本周辺では沖縄や小
笠原などの亜熱帯域から、九州・四国・本州南部などの黒潮の影響を受ける温
帯域(これまで確認されている分布北限は和歌山県)まで広く分布していると
考えられてきました。

 ある海域に生息する造礁サンゴの仲間が、一年のうちのある特定の日に一斉
に「産卵」する様子は映像などでもたびたび紹介されているので、ご存知の方
も多いと思います。この「産卵」のしかたは、サンゴの種によってさまざまに
異なり、興味深い生態として多くの研究が行われてきました。パリカメノコキ
クメイシについてもこのような研究例があり、その結果を見ると、本種は雌雄
同体で、温帯域のもの(以下、温帯型とします)は多数の卵と精子が一つの塊
となった「バンドル」を放出するという繁殖様式を持ち、沖縄などのサンゴ礁
域のもの(以下、サンゴ礁型とします)はバンドルを作らずに卵と精子をバラ
バラに放出し、その後にプラヌラ幼生も放出するという様式を持つことが知ら
れていました。この違いは生きものの種を考えるうえでかなり大きいものです
が、これら二つの型の間には分類上重要な骨格の形態では明瞭な違いが見いだ
せなかったため、繁殖様式の違いは種内での変異と判断され、パリカメノコキ
クメイシには温帯型とサンゴ礁型があるとされてきました。

 しかしその後、温帯型の繁殖様式を持つパリカメノコキクメイシがサンゴ礁
域でも見つかり、サンゴ礁域には両方の型が共存していることがわかってきま
した。このことから、本種の「温帯型」と「サンゴ礁型」は生殖的に隔離され
ている別の種である可能性が浮上しました。

 今回の研究では、はじめにこれら二つの型が共存する海域で両者の交配実験
を行い、これらが生殖的に隔離されている(違う型との間では卵と精子が受精
しない)ことを明らかにすることができました。

 次に、日本各地の「パリカメノコキクメイシ」から集めた遺伝子データの解
析を行いました。遺伝子の塩基配列を比較する分子系統解析は、近年生物学の
さまざまな分野で活用されるようになっています。イシサンゴ類についても、
形態の比較ではわからなかった種間の類縁関係の推定や隠蔽種の確認など、興
味深い成果が多数報告されています。今回の研究でもパリカメノコキクメイシ
の「温帯型」と「サンゴ礁型」は遺伝的に別の系統にあることがわかりました。
さらに、これまで違いがないとされていた骨格の形態を改めて詳しく調べたと
ころ、両型は非常によく似てはいるものの、隔壁の数や鋸歯の数などの形質に
統計的な差がみられ、また骨格細部の微細な形態も異なることが明らかになり
ました。これらの結果を総合して、日本のパリカメノコキクメイシにはサンゴ
礁域以南に分布する種(これまでサンゴ礁型とされていたもの)と、温帯域か
らサンゴ礁域まで広く分布する種(これまで温帯型とされていたもの)の2種
が含まれていたことがわかりました。さらにこれまで世界各地から報告されて
いるパリカメノコキクメイシの遺伝子配列のデータを検討したところ、両種と
もインド・太平洋域に広く分布しているらしいこともわかってきました。

 さて、これらの2種の名前をどうするかというのが次の問題です。生物の名
前には、ラテン語をベースとする世界共通の学名と、私たちが日本で用いてい
る日本語の名前(和名)があります(「Coelastrea aspera」は学名、「パリ
カメノコキクメイシ」は和名です)。これらについて検討しました。

 動物の学名は、一つの種に一つの名前を対応させることが「国際動物命名規
約」で定められており、一つの種に複数の学名が付けられてしまった場合には
最初につけられた学名が優先される(あとから付けられた学名は使うことがで
きず、「新参シノニム」と称される)と決められています。これまでパリカメ
ノコキクメイシに使われていた学名は1866年に命名されたCoelastrea aspera
(少し前まではGoniastrea asperaとされていました)で、このほかに新参シ
ノニムが3つ存在しました。これらの全てについて、新種として発表された論
文の記載内容を検討し、記載の元になった標本が残されている場合(海外の博
物館では、このような19世紀の標本も大切に保管されていることが多いです)
にはそれらの観察を行いました。その結果、サンゴ礁型の種はGoniastrea asp
eraと形態がよく一致し、温帯型の種は新参シノニムとされていた3種全てが形
態的に一致しました。後者については、3種のうち最も古く1886年に記載され
たGoniastrea incrustansを(Coelastrea incrustansとして)用いるべきとい
う結論となりました。和名の方は、「パリカメノコキクメイシ」がサンゴ礁型
の種につけられたものだったため、温帯型の種の方に「ヒュウガパリカメノコ
キクメイシ」という新しい和名を提唱しました。

 以上がこの論文の内容です。ある一つの種が実は2種の混ざったものだった
ことを証明するために、産卵期の交配実験、遺伝子の塩基配列の分析、形態の
詳細な検討、過去の文献の再検討、海外の研究機関にある標本の観察など、非
常に多くの作業が必要となりました。筆者を含む6人の研究者が作業を分担し
共同で研究を行うことで、この成果が得られたということになります。

 本研究でパリカメノコキクメイシとヒュウガパリカメノコキクメイシが独立
した種であることは証明されましたが、実はこの研究の過程で新たな課題も見
つかっています。その一つが、遺伝子の解析でこれら2種のどちらとも全く異
なった系統にあるものが見つかったことです。このサンゴは形態的にはヒュウ
ガパリカメノコキクメイシとほとんど見分けがつかないのですが、遺伝子の塩
基配列はキクメイシ属Dipsastraeaという全く別のグループと極めて類似して
いました。現在のところ、このサンゴは宮崎県で一例が見つかっただけですが、
遺伝子のデータベースを調べると、同じ特徴を持つものは紅海でも報告されて
いました。もしかするとこのサンゴも数は少ないものの広く分布する別種なの
かもしれません。また、小笠原諸島の「パリカメノコキクメイシ」も、上記の
2種のどちらとも形態的には異なるもののようです。こちらは遺伝子のデータ
が未調査なので、これもこれからの研究課題です。

 造礁サンゴの仲間は、日本産だけで400種を超えると推定されていますが、
そのなかには今回紹介したパリカメノコキクメイシと似たような状況にあるも
のが少なくありません。日本に分布する造礁サンゴの仲間の全貌を明らかにす
るためには、まだまだ研究が必要です。                    
                    (主任上席研究員 立川浩之)

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│★海の博物館周辺の情報
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【観光情報】

・かつうら海中公園海中展望塔
  海の博物館の真ん前にあります。水深8mの海中展望室から季節ごとの魚や
 海底の様子を楽しむことができます。
    2月25日(金)~3月3日(木)は、園内のビジターセンターレクチャールーム
  で「ちっちゃいひな祭り」を開催します。応募で寄せられた手作りのかわい
 いひな人形がたくさん飾られます。
  詳しくは勝浦海中展望塔のホームページをご覧ください。
   http://www.katsuura.org/index.php 

・勝浦朝市は通常どおり(6時半頃~11時頃・水曜休み)開催されています。
  詳しくは勝浦市観光協会のホームページをご覧ください。
   https://www.katsuura-kankou.net/asaichitop/


【施設情報】

・勝浦市郷土資料室がオープン
  勝浦市立図書館の中に開設されました。郷土の歴史や文化財などをそれ
 ぞれのテーマを設けて展示紹介しています。
  休室日:月曜日・祝日・年始(図書館の休館日と同じ)  
  問合せ先:勝浦市教育委員会生涯学習課生涯学習係
       0470-73-6665
  
・勝浦海中公園無料休憩所
  施設取り壊しのため利用できません。

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今月も、海の博物館メールマガジンを最後までお読みいただきありがとうござ
いました。

発行  千葉県立中央博物館分館 海の博物館
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