千葉県立中央博物館分館海の博物館メールマガジン バックナンバー
海からのたより 第124号
配信日時:2015/06/01 09:00
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  千葉県立中央博物館分館 海の博物館メールマガジン

 『海からのたより』 第124号
                          2015年6月1日発行

                 千葉県立中央博物館分館 海の博物館
                 http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/


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│目次
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★千葉県民の日 臨時開館・入館無料のお知らせ
★平成27年度の企画展示のお知らせ
★6、7月の行事案内
★研究員ノート -被災地のアサクサノリ-


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│★千葉県民の日 臨時開館・入館無料のお知らせ
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●6月15日(月)は千葉県民の日のため臨時開館します。
 入場料、駐車場利用料金ともに無料になります。

 千葉県外にお住まいの方も対象となります。この機会に、海の博物館をぜひ
ご利用ください!


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│★平成27年度の企画展示のお知らせ
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今年度、海の博物館では次の展覧会を予定しています。皆様、お楽しみに!


▲収蔵資料展「夏休みスペシャル 外房・川の生きものミニ水族館」
 会期:平成27年7月18日(土)~8月31日(月)

 海の博物館のある房総半島太平洋側の「外房」と呼ばれる地域は、海だけで
なく淡水の自然も豊かです。外房の川や池などにすむ生きものたちを水槽で展
示します。絶滅の危機にあり、国の天然記念物および希少野生動植物種にも指
定されている「ミヤコタナゴ」の展示もあります。


▲平成27年度マリンサイエンスギャラリー
 「毒を持つ海の生きもの -食べるため・食べられないため-」
 会期:平成28年2月27日(土)~5月8日(日)

 千葉県に分布する種類を中心に、体に毒を持ち、他の生きものを食べるため
や敵から身を守るために毒を利用する海の生きものを紹介します。


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│★6、7月の行事案内
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 6、7月は潮のよく引くシーズンです。海の博物館では、さまざまな行事を開
催して皆様の参加をお待ちしております。

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【観察会】
 「磯にすむヘンな生きものウォッチ」
 磯にすむ変わった形の生きものを探して観察します。
  対象:小学生以上(小学生は保護者同伴) 定員:20名
  日時:6月6日(土)11:30-13:30
  事前申込: 申込み締切日を過ぎましたが、まだ余裕があります。
  参加費:傷害保険料50円

「はじめての磯あそび」
幼稚園児など、小さなお子様向けの観察会です。海岸の安全な場所でカニやヤ
ドカリの観察を行います。これから磯の生きもの観察をはじめたい方にぴった
りです。
  対象:幼稚園児(保護者同伴) 定員:20名
  日時:6月15日(月・県民の日)9:30-10:30
  参加費:傷害保険料50円
  事前申込:締切日:6月1日(月)
  ※現在まだ空きが多数あります。

「夷隅川の干潟でカニを調査しよう」
 河口干潟と砂浜のカニ類の生息状況を調べます。
  対象:一般(大学生以上) 定員:10名
  日時:7月18日(土)10:00-14:00
  事前申込:締切日:7月4日(土)
  参加費:傷害保険料50円
  ※現地集合・昼食をご用意下さい。

 ※観察会へのお申し込みは、ハガキもしくは電子メール、FAXで、以下を明
記の上、当館あてにお送り下さい。また、海の博物館受付でも申込みできます。

   1. 参加を希望する行事の名称と月日
   2. 氏名(参加者全員分)
   3. 年齢(学年)
   4. 郵便番号・住所
   5. 電話番号

【磯・いそ探検隊】
 研究員の案内で博物館前の磯で生きものを観察します。
   定員:15名
   日時:6月20日(土) 12:00~13:00
   (当日申込み。先着順です。)
   参加費:無料。ただし、傷害保険料として50円必要です。


【みんなで工作 海の生きもの】
 海の生きものにちなんだ簡単な工作を行います。どなたでもお気軽に参加で
きます。定員は各回15名です(当日申込み。先着順で、定員になりしだい締め
切りとなります)。
  7月25日(土)10:45-11:45 13:30-14:30
     「海で見つけた材料でオリジナルオブジェを作ろう」
 参加費:材料費として50円必要です。

【海の体験コーナー】
 体験交流員といっしょに、海にまつわるさまざまなメニューにチャレンジし
ます。

  6月 13日(土)「海藻おしばを作ろう」
  6月 27日(土)「微小貝を探そう」
  各日11:00からと13:30からの2回、約20分間開催します。
     (当日申込み。定員6名。先着順となります)
  参加費:材料費として50円必要です。
  *都合により、メニューが変更になる場合があります。



   海の博物館の行事について、詳しくはこちらをご覧下さい。
      http://www2.chiba-muse.or.jp/?page_id=533


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│★研究員ノート -被災地のアサクサノリ-
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  私の研究の対象であり、日本人になじみの深い食材で、古く江戸時代から
養殖されてきたノリ(海苔)。四角くすいた乾海苔の代名詞「浅草海苔」は有
名です。1950年代まで養殖の主対象であった「アサクサノリ」という種類は、
現在では絶滅危惧種となってしまったことは、このメールマガジンでも何度か
紹介してきています。アサクサノリは天然では本州から九州まで広く分布し、
主に河川の河口付近に広がる干潟に生育していることが知られていますが、生
育地の多くが埋め立てや干拓、河川工事などで消滅するとともに、養殖にも使
用されなくなったことが、その減少の原因と考えられます。
 アサクサノリの生育地は、1998年以降の断続的な調査で、日本全国で50カ所
程度が見つかっています。東北地方でも、太平洋側の各地でいくつかの生育地
が見つかっており、私も過去に、福島県、宮城県、岩手県の生育地を訪れ、そ
の生育を確認したことがあります。東北地方の生育地も全国の多くのアサクサ
ノリ生育地と同じく、海につながった潮入の湖(潟湖:せきこ)や小さな河川
の河口付近の干潟です。

 2011年3月11日、それら東北のアサクサノリの生育地を取り巻く大きな環境の
変化がありました。東北地方太平洋沖地震に端を発する東日本大震災です。震
災後、津波による浸水のあった地域を示した地図が新聞に載っており、それを
今でも保管してありますが、それを見ますと、東北地方のアサクサノリ生育地
の全てが、津波によって浸水した地域に入っています。潟湖や川の河口付近の
干潟は、津波の影響を最も受けやすい場所と言えるかもしれません。津波の威
力でアサクサノリやその着生場所となる種子植物のヨシの原が流されてしまっ
たら、アサクサノリは二度と生えてこないかもしれません。
 津波の影響で東北のアサクサノリがどうなってしまったのか、すぐにでも見
に行きたいところでしたが、なかなか調査に行く機会が得られず、気がかりな
ままでいました。そして、今年3月、ようやくその機会を得ることができ、福島
県相馬市の松川浦、宮城県亘理町の鳥の海、そして、宮城県石巻市の長面浦と
万石浦などを、2泊3日のかけ足で見てきました。アサクサノリは・・・、生え
ていました。

 最初に訪れた相馬市の松川浦は、大きな潟湖ですが、そこに流れ込む河川の
河口付近に広いヨシ原があり、2003年に訪れたときは、ヨシの茎の根元付近に
たくさんのアサクサノリが付いていました。そのような光景は残されているの
でしょうか。現地に到着すると、遠目にヨシ原が見えます。ヨシ原は残ってい
ました。期待しながら、急ぎ干潟に入り、ヨシに近寄ります。しかし、アサク
サノリらしきものは生えていません。丹念にヨシの根元を見ていくと、ほんの
わずかですが、アサクサノリらしきノリが付いていました。その後、1時間に
わたり、ヨシ原を歩き回ったところ、2003年の調査時とは比べものにならない
わずかな量でしたが、ところどころのヨシにアサクサノリらしきノリの着生が
認められました。「アサクサノリは生きていた」まずはホッとしました。

 亘理町の鳥の海も潟湖ですが、海とは、松林のある砂州で仕切られており、
2006年の調査では、海に近い場所にある広いヨシ原にたくさんのアサクサノリ
が見られました。今回訪れた鳥の海は、砂州にあった松林は全くなくなり、代
わりに背の高い防潮堤の建設が進められていました。干潟を歩いて行くと、防
潮堤の手前の干潟には、面積は小さくなっているように思われましたが、ヨシ
原が残されていました。近寄ると、アサクサノリらしきノリはほんの少ししか
見られません。1時間以上歩き回った結果、それなりの量が見られることはわか
りましたが、2006年と比べると、とても少ない状態でした。それでも、アサクサ
ノリが残されていることがわかって、ここでもホッとしました。

 衝撃を受けたのは、石巻市の北上川の河口に近い長面浦です。環境省の選定
した「日本の重要湿地500」のひとつにもなっている潮入の湖で、多くの被害者
が出た大川小学校の近くにあります。大川小学校から長面浦に向かって行く途
中は、たくさんのダンプカーが走り、復興工事が進められていました。うろ覚
えな記憶では集落もあったように思いますが、建物は見当たりません。そして、
長面浦と海とをつなぐ水路にかかる尾ノ崎橋に着きました。2004年の調査では、
この水路の途中に小規模なヨシ原があり、そこにアサクサノリが付いていまし
た。しかし・・・、 橋から海に向かってあったはずの水路とその周りの土地
が海になっていました。もちろん水路にあったヨシ原はありません。アサクサ
ノリの生育地が消滅していました。
 東日本大震災では各地で地盤沈下が起きたことが知られていますが、このあ
たりは、70cm前後もの沈下があったそうで、アサクサノリ生育地の周辺は海に
没してしまったようです。現在では、残った陸地は徐々に整備されてきていま
した。尾ノ崎橋から長面浦側は、湖の護岸が崩れかけていました。護岸を歩い
てみると、わずかですがノリがありました。それはスサビノリのようでした。
スサビノリは現在、ノリ養殖の主対象として用いられている種類ですが、もと
もとは東北や北海道の外海に面した海岸にたくさん生えるノリです。スサビノ
リよりも深い所には、ワカメやホンダワラの仲間など、外海に面した海岸と変
わらない海藻がたくさん生えており、その場所が「湖の中」から「海に面した
海岸」に変化してしまったことを示しているようでした。こうなると、たとえ
アサクサノリが残っていたとしても、その生育には向かない環境であるため、
やがてはアサクサノリが消滅してしまう可能性が高いでしょう。

 私が震災後に東北に入ったのは今回が初めてで、2011年の震災から今年まで
の被災地の変化は、テレビなどで見た以上のことを知りません。今回の調査に
同行していただいた方は、震災後、何度か東北に来られているそうで、今回ま
わった地域だけでも、以前と比べると家が再建されたりして、徐々に復興が進
んでいる様子がうかがわれると話していました。松川浦や鳥の海のアサクサノ
リの生育地も、インターネットなどで調べてみると、おそらく震災時には、壊
滅的な打撃を受けたのではないかと思われ、その後しばらくは、今回見られた
量ほどのアサクサノリは生育していなかったのではないかと想像されます。ア
サクサノリの生育量の多少にはその年の気候などが関係しており、たくさん見
られる年とあまり見られない年とがあることが知られています。しかし、東北
以外のアサクサノリ生育地の今年の様子と比較しても、今回調査した東北のア
サクサノリ生育地では、震災から数年が経ち、生き延びたアサクサノリが、よ
うやく今年見られたくらいの量にまで回復してきた状態ではないかと想像して
います。

 東北の復興は様々な条件の中で、進んだ部分となかなか進まない部分とがあ
るようですが、人間の世界の復興とともに、アサクサノリの世界の復興も、徐
々にではあれ進んでいってくれればと願うばかりです。また今度、東北のアサ
クサノリに会いに行きたいと思いながら、今回の調査を終えました。
(主任上席研究員 菊地則雄)

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 今月も、海の博物館メールマガジンを最後までお読みいただきありがとうご
ざいました。

発行  千葉県立中央博物館分館 海の博物館
連絡先 〒299-5242 千葉県勝浦市吉尾123
    電話:0470-76-1133 FAX:0470-76-1821
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