千葉県立中央博物館分館海の博物館メールマガジン バックナンバー
海からのたより 第152号
配信日時:2017/10/01 10:00
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  千葉県立中央博物館分館 海の博物館メールマガジン

 『海からのたより』 第152号
                          2017年10月1日発行

                 千葉県立中央博物館分館 海の博物館
                 http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/

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 読書の秋、スポーツの秋、博物館の秋!
  食欲の秋も捨てがたいですが・・

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│目次
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★さわやかちば県民プラザで出張展示を行います!
★10月の行事案内
★研究員ノート −「日本動物図鑑」とその改訂増補版−
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│★さわやかちば県民プラザで出張展示を行います!
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 さわやかちば県民プラザとの連携事業として、出張展示を行います。
 房総で見られるさまざまな海の生きものを、当館所蔵の剥製や写真などで紹
介します。
 柏市近辺にお住いの皆様、この機会をお見逃しなく!

 タイトル:平成29年度 ちばのお宝再発見 「房総の海の生きもの」
 会期:10月21日(土)〜11月9日(木)
 会場:さわやかちば県民プラザ(柏市) 県民ギャラリー1階
 !無料でご覧いただけます!

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│★10月の行事案内
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 詳しくはこちらをご覧下さい。
  http://www2.chiba-muse.or.jp/?page_id=394

【海の体験コーナー】
 体験交流員といっしょに、海にまつわるさまざまなメニューにチャレンジす
る行事です。
 10月 7日(土)「海藻おしばを作ろう」
 10月 21日(土)「海藻おしばを作ろう」
   (当日申込み。定員6名。定員を超えた場合は抽選となります)
 ※入場料のほか、材料費50円/人が必要です。

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│★研究員ノート −「日本動物図鑑」とその改訂増補版−
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 今年度の当館収蔵資料展「夏休み海の学びスペシャル エビざんまい」は、
去る7月22日から9月3日まで開催されました。私はその主担当として、展示内
容の立案や展示物の収集、展示パネルの執筆などを行いました。その中で、
「美味しいエビとその名前」というコーナーを設け、「ぼたんえび」と「てな
がえび」を題材として、通称としてこれらの名前を用いている種類は、標準和
名でこのように命名されている種類と別のものであることを紹介しました。現
在、広く「ぼたんえび」の名で流通している種類の標準和名は「トヤマエビ」
、フランス料理などで「てながえび」とされているエビの日本代表種の標準和
名は「アカザエビ」です。生きものの万国共通の名前である学名は、いつ、ど
こで、誰が提唱したものか追跡することが可能です。しかし、日本語の名前は
、特に古くから慣れ親しまれているものですと、どのような文献が原典で、誰
が名付けたものなのか、よくわからないものが少なくありません。展示パネル
の執筆にあたり、それらの名前のルーツにたどり着くため、様々な古い文献を
ひっくり返していました。
 その一つが、1927年(昭和2年)に出版された「日本動物図鑑」(北隆館)
です。「原生動物」からほ乳類に至るまでの約4000種が、20名を越す動物分類
学者の手によって執筆されています。カラー図版も20ページに及んでいます。
明治維新とともに近代動物学が日本に入ってきてからおよそ60年目にして形に
なった、一般の動物愛好家が手軽に名前調べをすることができる初めての動物
図鑑です。この本の凡例には、それまでに広く用いられていた和名がある場合
にはそれを適用し、それが見当たらない場合は新たな和名を与え、和名の必要
のないものは学名のカタカナ表記にしたことが述べられています。標準和名
「トヤマエビ」は、この時点ですでに用いられていました。ところがアカザエ
ビのほうは、「ネフロップス・ヤポニクス」と当時の学名をカタカナで記した
名称が使われていました。何と、今や水産重要種であるアカザエビも、この時
点では和名の必要のない種(!)に振り分けられていたということです。
 のちに、この図鑑の改訂増補版が出版されます。これは、旧版に掲載された
昆虫類約600種を昆虫だけの図鑑にまわすために除外し、別に約1,100種の動物
を加えて出版されました。私が驚いたのは、この改訂増補版の出版が1947年
(昭和22年)ということです。太平洋戦争の終戦が昭和20年。それからわずか
2年の後にこれだけの図鑑を出版するという当時の動物分類学者の意気込みに
は心から敬意を表します。おそらく戦争が激化する直前まで、蓄積された新知
見に基づいて改訂作業がなされていただろうとはいえ、徴兵されたり、終戦間
際には軍事に関わる研究に従事させられた研究者も少なくない中での出版です
。事実、千葉県にも関係の深い「風船爆弾」の開発をしていた帝国陸軍の研究
機関「陸軍登戸研究所」の嘱託研究者の中には、この図鑑の執筆者数名の名前
も見られます。どのような時勢になっても、動物分類学者は動物分類学の発展
を強く望んでいただろうことが想像に難くありません。そのエネルギーが終戦
から短期間のうちに改訂増補版を作り上げたのではないでしょうか。ちなみに
、標準和名「アカザエビ」が初めて用いられたのは、この改訂増補版のようで
す。
 この図鑑の出版を介して、動物分類学が激動の時代を乗り越えてきたことが
垣間見れました。しかし皮肉なことに、この学問は、戦後の高度経済成長期に
なると、「前近代的」とか「必要性に乏しい」などと言われて衰退しはじめ、
そのまま現在に至っています。これは明らかに誤った考え方で、たとえ戦前と
同じ精度で標本を調べてみても、動物分類学、特に海産無脊椎動物の分類には
まだまだ新しい発見がなされ、その多様性の高さを証明するために大きく前進
します。これからも、動物図鑑は動物分類学者の研究成果によってアップデー
トされていくことが望まれています。

(主任上席研究員 奥野淳兒)


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 今月も、海の博物館メールマガジンを最後までお読みいただきありがとうご
ざいました。

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