千葉県立中央博物館分館海の博物館メールマガジン バックナンバー
海からのたより 第163号
配信日時:2018/09/01 10:00
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  千葉県立中央博物館分館 海の博物館メールマガジン

 『海からのたより』 第163号
                          2018年9月1日発行

                 千葉県立中央博物館分館 海の博物館
                 http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/

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 夏も一段落。
 勝浦では秋まつりに向けて盛り上がっています。

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│目次
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★9月2日(日)まで!収蔵資料展「千葉の海 貝づくし」
★9月の行事案内
★研究員ノート −スタンパー博士来館 ・謎多きハナギンチャク類の研究−
★海の博物館周辺の情報
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│★9月2日(日)まで!収蔵資料展「千葉の海 貝づくし」
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 千葉県の海で見られるさまざまな貝を紹介しています。
 会期は9月2日(日)までです。お見逃しなく!

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│★9月の行事案内
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 詳しくはウェブサイトをご覧下さい。
http://www2.chiba-muse.or.jp/www/UMIHAKU/genre/1517380874379/index.html

【海の体験コーナー】
 体験交流員といっしょに、海にまつわるさまざまなメニューにチャレンジす
る行事です。
 9月 8日(土)「コーラルプリントをしよう」
 9月 22日(土)「海で見つけた材料でオリジナルオブジェを作ろう」
   (当日申込み。定員6名。定員を超えた場合は抽選となります)
 ※入場料のほか、材料費50円/人が必要です。

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│★研究員ノート −スタンパー博士来館 ・謎多きハナギンチャク類の研究−
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【スタンパー博士来訪】
今年の7月2日から4日までの3日間、ブラジルのサンパウロ州立大学のセル
ジオ・スタンパー博士が海の博物館に滞在しました。スタンパー博士はハナギ
ンチャク類の分類や進化に関する研究の世界的権威です。博士は現在、日本周
辺のハナギンチャク類の分類学的研究も進めており、今回の訪問目的は当館に
所蔵されているハナギンチャク類の標本を調査することでした。

【ハナギンチャクは何の仲間?】
ハナギンチャク類は、イソギンチャクやクラゲなどのように、体に「刺胞(し
ほう)」と呼ばれる注射針が仕込まれた毒液カプセルを持つ「刺胞動物門」に
属します。「刺胞動物門」には、クラゲ型の世代を持つ「鉢虫綱」、「箱虫綱
」、「ヒドロ虫綱」、「十文字クラゲ綱」の4つのグループのほか、クラゲを
作ることがないイソギンチャクやサンゴの仲間が属する「花虫綱」があり、ハ
ナギンチャク類もこの一員です。「花虫綱」は、体の内部を仕切る膜の配列に
よって、イシサンゴやイソギンチャクなどが含まれる「六放サンゴ亜綱」と、
宝石サンゴやウミトサカ、ヤギなどのいわゆるソフトコーラルと呼ばれる仲間
が含まれる「八放サンゴ亜綱」の2つのグループに分けられてきました。ハナ
ギンチャクは、従来「六放サンゴ亜綱」に含められていたのですが、最近にな
って、スタンパー博士らの主にDNAを用いた研究によって、「六放サンゴ亜綱
」と「八放サンゴ亜綱」のどちらにも属さないことが判明しました。この結果
を受けて、スタンパー博士らは、新たに「ハナギンチャク亜綱」を設立して、
分類を整理しました。

*参考:ムラサキハナギンチャク(千葉の県立博物館 デジタルミュージアム「館山の海底」)
http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/tokusyu/tateyama/shihou/shihou09.htm

【ハナギンチャクの特徴】
ハナギンチャク類には「花虫綱」の仲間としては珍しい特徴がいくつかありま
す。その一つは、多くの種が体が完全に収まる管(棲管)を自分でつくりその
中で生活することです。この管はとても丈夫で弾力があり、切ったり破いたり
するのはとても大変です。また、ハナギンチャク類には、非常に長い幼生期を
持つという特徴もあります。ハナギンチャク類の生活史はまだわかっていない
ことが多いのですが、幼生は数ヶ月から1年以上、海中をプランクトンとして
漂って暮らすことが知られています。ハナギンチャク類の幼生の姿は種類によ
って様々ですが、いずれも親とは全く別の形をしています。

【進まぬ分類】
上記のような特徴とも関係して、ハナギンチャク類の分類の研究はあまり進ん
でいません。ハナギンチャク類の多くの種は、海底面に触手を広げていますが
、外敵などに襲われると砂泥中に埋まっている丈夫な管の奥深くに逃げ込みま
す。浅海に生息するムラサキハナギンチャクなどでは、1メートル以上も深く
潜ってしまうこともあり、採集するのがとても難しいのです。スキューバダイ
ビングでの採集では、海底をひたすらスコップで掘る必要があるので、1回の
潜水で採集できるのはせいぜい1個体で、それすら失敗することもあります。
さらに深い海に生息する種類などは、映像では多くの個体が見つかるものの、
これらを採集する方法がなく、研究するための標本がほとんど入手できません
。一方、とても長い幼生期を持っているうえ、これらの幼生が親とは似ても似
つかない形をしていることから、幼生だけで新種として発表されてしまってい
る種もたくさんいます。このため、幼生と親に別々の名前が付いてしまってい
るものが少なくないだろうと予想されているのですが、どの種がどの幼生をつ
くるのかを確かめることはとても困難で根気のいる作業です。現在は、それぞ
れのDNAを調べて同一性を検証するという研究が進みつつあります。

【日本のハナギンチャクの分類】
これまで日本では10種弱のハナギンチャク類が知られていますが、分類の研究
はあまり進んでおらず、まだまだ未知のハナギンチャクも多くいると思われま
す。しかし、分類の研究を進めるために必要な標本は、採集が困難なことから
なかなか集めることができません。そこで現在、スタンパー博士は、野外で採
集を試みると同時に、日本の博物館の保管されている標本を調べていく、とい
う研究を進めています。国内のどの博物館でも所蔵しているハナギンチャク類
標本は非常に少ないのですが、海の博物館もご多分に漏れず、ハナギンチャク
類の標本は、千葉県産のものを中心にわずか12個体が所蔵されているのみです
(これでも多いほうだそうですが...)。今回、スタンパー博士は、これら
の標本とそれらの生時に撮影された写真を3日間かけて全て調べました。その
成果は未発表なので内容を書くことはできないのですが、とても重要な発見が
いくつかありました。その内容については、研究成果の発表を待ってご報告し
たいと思います。乞うご期待!

【おまけ タテヤマハナギンチャク(仮称)】
千葉県館山市の沖ノ島から、「タテヤマハナギンチャク(仮称)」と呼ばれる
ハナギンチャクが報告されています。これは今のところ沖ノ島以外では発見さ
れていないという、謎のハナギンチャクです。イソギンチャク類の分類の大家
、内田紘臣先生が2001年に仮称としてこのハナギンチャクにタテヤマハナギン
チャクという名前を付けました。それ以降、海の博物館では何度も沖ノ島の生
物調査を行ってきましたが、まだこのハナギンチャクは見つかっていません。
いつかこの「タテヤマハナギンチャク」を見てみたいと思っています。

(主任上席研究員 柳 研介)

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│★海の博物館周辺の情報
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●「勝浦大漁まつり」(勝浦の秋まつり)開催のお知らせ
 海の博物館のある勝浦市では、9月14日(金)から9月17日(月・祝)に市街
中心地区で「勝浦大漁まつり」(秋まつり)が行われます。
 *今年度は会場周辺の工事に伴い、例年と一部内容が変更となる場合があります。
 
 以上の詳しい情報は、勝浦市観光ポータルサイト「かつうら潮風散歩道」を
ご覧ください。
http://www.katsuura-sanpo.com/

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 今月も、海の博物館メールマガジンを最後までお読みいただきありがとうご
ざいました。

発行  千葉県立中央博物館分館 海の博物館
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    電話:0470-76-1133 FAX:0470-76-1821
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