千葉県立中央博物館分館海の博物館メールマガジン バックナンバー
海からのたより 第169号
配信日時:2019/03/01 10:00
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  千葉県立中央博物館分館 海の博物館メールマガジン

 『海からのたより』 第169号
                          2019年3月1日発行

                 千葉県立中央博物館分館 海の博物館
                 http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/

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 この3月で、千葉県立中央博物館分館海の博物館は開館20周年を迎えます。
 1999年の開館以来、20年間にわたって活動を続けることができたのは、皆様のご支援あってのことです。
 今後とも、どうぞ宜しくお願いいたします。

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│目次
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★マリンサイエンスギャラリー「水辺の外来生物 -房総の海と川から-」開催中!
★3月の行事案内
★研究員ノート −シーボルトが図示しなかったため戦後の学習図鑑まで混乱を引きずった件:セミエビとゾウリエビを例として−
★海の博物館周辺の情報
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│★マリンサイエンスギャラリー「水辺の外来生物 -房総の海と川から-」開催中!
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 今年度の企画展示、マリンサイエンスギャラリー「水辺の外来生物 -房総の海と川から-」が開催中です。

 もともとその地域にはすんでいなかったのに、人間によって他の地域から持ち込まれた生きものを「外来生物」と呼びます。この展示では、房総の海や川でみられる外来生物の種類や生活、生態系に及ぼす影響などについて紹介します。

 会期は5月6日までです。お見逃しなく!

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│★3月の行事案内
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 詳しくはウェブサイトをご覧下さい。
http://www2.chiba-muse.or.jp/www/UMIHAKU/genre/1517380874379/index.html
 *4月以降の行事予定は3月中に公開予定です。

【講座】 *申込締切日は過ぎておりますが、お問い合わせ下さい。
 3月10日(日)「海藻に見る外来生物」
 外来生物となっている海藻について紹介します。

【博物館探検隊(バックヤードツアー)】
 ふだん見ることのできない博物館のバックヤードを、研究員の案内でめぐり
ます。
   日時:3月24日(日) 13:30〜14:00
 定員各回15名(当日申込み。先着順)

【海の体験コーナー】
 体験交流員といっしょに、海にまつわるさまざまなメニューにチャレンジする行事です。
  3月  9日(土)「コーラルプリントをしよう」
  3月  23日(土)「オリジナルオブジェをつくろう」
   (当日申込み。定員6名。定員を超えた場合は抽選となります)
 ※入場料のほか、材料費50円/人が必要です。
 
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│★研究員ノート −シーボルトが図示しなかったため戦後の学習図鑑まで混乱を
   引きずった件:セミエビとゾウリエビを例として−
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 南房総で盛んに行われている漁業のひとつにイセエビの刺し網漁(通称エビ網)
があります。この漁法では、イセエビ以外の甲殻類も混獲されますが、その中に
セミエビとゾウリエビという2種のエビが含まれます。これらのエビは、系統的
にはイセエビに近いのですが、長い触角がないことで見た目はかなり異なります。
セミエビはまるで昆虫のセミのような外観をしており、ゾウリエビはそれよりも
幅が広いため、草履に見立てた名前が付けられています。専門的にはこれら2種を
触角末端縁に鋸歯があるかないか、腹節の下縁が鋭く尖るか丸くて小さな鋸歯が
ならぶか、歩脚の黄色と黒のバンドが明瞭か不明瞭か、などの形や色の相違によ
って区別します。
 現在、飼育室ではゾウリエビを飼育しており、バックヤードツアーなどの時に
紹介しています。エビを見せると、図鑑などで海の生きものに慣れ親しんでいる
子どもからは「あ、ウチワエビ!」という声があがります。確かに、長い触角を
持たないロブスターなのでウチワエビはセミエビやゾウリエビとよく似ています
。エビをあまり見慣れない人にはパッと区別するのは難しいようです。
 これらの見分けに慣れが必要なことは今に始まったことではないようです。セ
ミエビ、ゾウリエビ、ウチワエビとも、日本から初めて報告されたのは、江戸時
代にオランダ医として来日した、かの有名なシーボルトが編纂した「日本動物誌
(ファウナ・ヤポニカ)」においてでした。これは、シーボルトが日本滞在中に
集めた膨大な動物標本のうち、哺乳類、鳥類、爬虫・両生類、魚類、甲殻類につ
いてまとめられたモノグラフです。ほとんどの種に精緻な図を伴っており、この
中でセミエビとウチワエビは見事な図を伴って報告されました。また、本メール
マガジン今年の6月号で紹介したセミエビの類似種、コブセミエビも大きな図と
ともに掲載されています。しかし、ゾウリエビは標本が得られているものの、図
は描かれませんでした。一方、江戸時代後期に日本各地で製作された、いわゆる
「博物図譜」にもセミエビ、ゾウリエビ、ウチワエビがしばしば描かれています
。今と同じように、各地で混獲されていたことが想像されます。しかし、その名
称については統一性が見られませんでした。
 明治になって日本にも近代動物学が導入され、日本人による出版物でも動物に
学名を伴って紹介されるようになりました。日本でゾウリエビが初めて学名とと
もに図示されたのは、明治36 (1903) 年に出版された「第五回内国勧業博覧会堺
水族館図解」という、かつて大阪府堺市大浜公園にあった堺水族館で展示してい
た生きものを線画で紹介した本です。ところが、その和名は「うちはゑび」、学
名は Ibacus となっており、現在のウチワエビと同じ扱いをされていました。そ
れまでにゾウリエビがきちんと図示された文献がなかったので、誤認が生じてし
まったのでしょう。次に図示されたのは大日本水産会が編纂した「日本水産動植
物図集」という昭和7 (1932) 年に出版されたカラー図譜でした。ここには画家・
伊藤熊太郎による美麗なゾウリエビのカラー図が掲載されていますが、その和名
は「セミエビ」、学名はコブセミエビに使われたことのある Scyllarus haani と
されていました。本メールマガジンの2017年10月号で紹介した日本で初めての動
物図鑑である昭和 2 (1927) 年出版の「日本動物図鑑」(北隆館) では正しくセミ
エビが掲載されていますが、残念ながらその図は白黒でした。美しいカラー図版
の印象が強烈だったせいか、戦前に市販されたその他の図鑑類では「日本水産動
植物図集」を踏襲して、その後しばらくの間ゾウリエビはセミエビとして紹介さ
れ続けました。
 結局、日本の出版物で正しくゾウリエビを掲載したのは昭和22 (1947) 年に出
版された「改訂増補日本動物図鑑」(北隆館) でした。しかし、戦後の混乱の中で
作られた図鑑のせいか、この正確な情報はしばらく波及しなかったようです。「
もはや戦後ではない」と言われた高度経済成長期、日本では「学習図鑑」と呼ば
れるジャンルが大きく花開き、当時の子どもたちの知的好奇心を満たすために重
要な学習支援ツールのひとつとなりました。このような図鑑の初期のものである
保育社の「学習魚貝図鑑」は昭和31 (1956) 年に出版されましたが、ここでもゾ
ウリエビがセミエビとして紹介されていました。
 これらの誤りは、元をたどればシーボルトの「日本動物誌」にきちんとゾウリ
エビの図が載らなかったことに端を発して「ボタンのかけ違い」を戦後の学習図
鑑まで引きずってしまったためと考えられます。このことに気づいたとき、当た
り前ですが時間は1秒たりとも止まらずに江戸時代から現在まで続いているのだ
な、と改めて実感しました。

(主任上席研究員 奥野淳兒)

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│★海の博物館周辺の情報
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●「2019 かつうらビッグひな祭り」
 3月3日(日)まで「かつうらビッグひな祭り」が開催中です。
 開催期間中、勝浦市芸術文化交流センター「Kuste(キュステ)」をはじめ、
市内各所に約30,000体のひな人形が飾られます。遠見岬(とみさき)神社では
、60段の石段一面におよそ1,800体の人形が飾られ、夕暮れ時からライトアッ
プされます。
 期間中は、盛りだくさんのイベントが行われます。

   詳しくは以下のホームページをご覧ください。
   http://www.katsuura-sanpo.com/facilities/event/post-449/

●かつうら海中公園で「ちっちゃいひな祭り」を開催中
 かつうら海中公園では勝浦「ビックひな祭り」に伴い「ちっちゃいひな祭り」
を開催し、皆様の手作りひな人形を展示します。
 展示期間は3月3日(日)までです。

   詳しくは、かつうら海中公園のホームページをご覧下さい。
   http://www.katsuura.org/

 勝浦観光の詳しい情報は、勝浦市観光ポータルサイト「かつうら潮風散歩道」を
ご覧ください。
http://www.katsuura-sanpo.com/

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 今月も、海の博物館メールマガジンを最後までお読みいただきありがとうございました。

発行  千葉県立中央博物館分館 海の博物館
連絡先 〒299-5242 千葉県勝浦市吉尾123
    電話:0470-76-1133 FAX:0470-76-1821
    http://www.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU
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